泡沫の龍騎士

泡沫の龍騎士 プロローグ

どこまでも広がる草々を踏みしめながら、二人の少年はなだらかな丘を駆け上っていく。 空は果てがないくらいに青く広がり、所々に雲が浮いていた。 二人の少年は、丘の頂上に着いたところで足を止め、そんな空を見上げる。 坂道を走ってきたため、二人とも少…

泡沫の龍騎士 1話

「二人とも、我が国の勝利の立役者として、後世に名を遺すことでしょう。ご苦労でした」 マルガトリム港襲撃より数日、ノルヴはもう一人の男と共に、目の前の女性にそんな言葉をかけられていた。 場所は、ノルヴらの上官らしい女の部屋。あまり広くなく、あ…

泡沫の龍騎士 2話

ノルヴと騎士長レリスが、一見デートに間違われそうな行動をしている頃、アドウェルは、帝国軍本部の廊下を一人歩いていた。 彼の顔は不機嫌そのものだ。その理由は、騎士長の部屋の前で彼がノルヴに放った言葉が如実に物語っている。 何故自分が、何歳も年…

泡沫の龍騎士 3話

「本部出発しました」 高空を飛ぶノルヴが、通信装置に向けて言う。彼は一旦村から本部に戻り、そこから国の北、戦闘が行われている場所に向けて飛んでいた。 通信の相手は、龍に乗れない関係で村に残してきたレリス。返答はすぐに戻ってくる。 「わかりまし…

泡沫の龍騎士 4話

南の鉱山にある錬金術師の村、その山頂を挟んだ反対側には、山の傾斜が極端になだらかになった山中の平原がある。 そこにある村はシュピネー国最南端の村で、上空を頻繁に龍騎士が往来していた。 この村で育ったノルヴが龍騎士にあこがれたのは、当然ともい…

泡沫の龍騎士 5話

「......ええ、そちらの資料室にも、ここにあるのと同じものがあります。管理する者には伝えてあるので、調べるのなら、自由にしてもらって構いません」 レリスは言い終えると、通信を切った。通信の相手は、沿岸基地にいるノルヴだ。 現在彼女がいるのは、…

泡沫の龍騎士 6話

「俺っちは、あの村から徒歩で数十分くらいのところで、一人小屋暮らしをしてたんだ。十年前にアドリア国の兵が奇襲作戦をして、山の南側は火の海になった。俺の住んでた小屋も燃えて、命からがら逃げだした。やっとこさ火のないところまで逃げられたと思っ…

泡沫の龍騎士 7話

「あの、騎士長」 後ろからレリスを呼ぶ声が聞こえた。 振り返ると、先ほど別れたばかりのアドウェルが立っている。 「まだ何か?」 少々素っ気ない口調になってしまうレリス。 だがアドウェルは、全く気にする様子がない。 「貴方は、何故あの男に目をかけ…

泡沫の龍騎士 8話

「え......こ、これは......」 その光景を見て、ノルヴは狼狽した。 訓練場からノルヴが出た途端、銃声が響いた。あまり感覚を開けずに、二回も。 駆けつけてみると、石造りの廊下の真ん中にレリスが立ち尽くしていた。彼女の手には小銃が握られており、銃口…

泡沫の龍騎士 9話

龍騎士隊同士の戦闘は、混戦となる場合が多い。龍の背には大砲のような巨大かつ重量のある火器を搭載することができない為、騎手が装備している二丁の小銃、或いはライフル銃での銃撃が主となる。無論戦闘中に空中静止している龍などはまずいない為、彼らが…

泡沫の龍騎士 10話

「ノルヴは......いつ知ったの? 僕が生きてたって」 レアはおずおずとノルヴに質問する。 それを聞くと、ノルヴは自嘲するように笑みを浮かべた。 「沖合であった戦闘の時、お前を見かけて初めて知ったよ......奇跡的に、お前の名が俺のとこまで届いてなか…

泡沫の龍騎士 11話

「この大陸における人と龍の関係は、遥か昔、一人の男から始まっているのだ」 白龍は穴から這い出て、地面に座り込んだ。 話が長くなるからお主らも座れという風に言われ、ノルヴとレアも地面に座る。 再び白龍の口が開かれ、人と龍の歴史が語られた。 人と…

泡沫の龍騎士 12話

「あー......疲れた......」 地面に降り立つや否や、ミストは地面に倒れこんだ。目の前には、彼の部下数名が立っている。 「無事に戻られて何よりです」 部下の内の一人が、感極まった声をミストに掛けた。勿論ミストはそんな雰囲気など無視して、ぐったりと…

泡沫の龍騎士 13話

銃声が鳴り響いた。 先ほどまで誰もいなかった筈の、訓練場入口からだ。 同時に、アルドがよろける。 皆が入口の方を見ると、そこに立っていたのは―― 「アドウェル?」 驚愕の声で、ノルヴがその男の名を呼んだ。 アドウェルは、煙立ち昇る銃口をこちらに向…

泡沫の龍騎士 14話

龍舎の中で、ノルヴは一人佇んでいた。 彼の目の前にいるのは、彼と幾度も戦いを共にしてきた黒龍。先程ノルヴがやった石を咀嚼している。 「この数週間、色々ありすぎたよなあ」 思わず独白が口から洩れた。 戦闘開始一時間前、準備も終え、あとは出発を残…